大判例

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金沢地方裁判所 昭和25年(行)7号 判決

原告 伊藤定次郎

被告 国

右代表者 法務総裁

一、主  文

原告の訴を却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事実及び理由

原告は、「原告は被告が覚書に基く法令の取扱いを誤り一方的に扶助料を剥奪した事は恩給法第七十三條に基く恩給権侵害なりとの裁判と此の訴訟に係る一切の費用も被告の負担である事を要求する」旨申立て、その請求原因として述べたところは末尾記載の「原因及び事由」並びに「六月二十九日訴状事由追補(第一回)」にあるとおりである。被告代表者等は、主文同旨の判決を求め、原告の訴は連合軍総司令部の覚書に違反することを理由とするもので、日本国の裁判所はこれについて裁判権を有しないものであると述べた。

仍て按ずるに、原告の訴旨によれば、昭和二十一年勅令第六十八号により支給を停止せられる軍人軍属の遺族たるに因る扶助料というのは解釈上国庫納金を納めた終身職業軍人等の遺族の扶助料をいうのであつて、原告の長男の如き「暫定的労務戰士」が戰死することによつてその遺族である原告等に支給される扶助料等はこれを包含しないのである。從つて、すでに昭和二十年十一月十六日付で扶助料請求手続を了している以上、実質的には原告は右勅令にかかわらず恩給法上の権利を享有する資格がある、というに帰する。すなわち原告は国家に対する公法上の債権として具体的に如何なる扶助料請求権を有しているかについての判断を求めるのではなく、事案と全く離れ、單に一般的抽象的に恩給法上の扶助料請求権ありとして法令の解釈を云々し、延いてはその法令の基本たる覚書迄を引合にし、その当否の判断を求めているのであるが、現行制度の上ではかかることは具体的事件についてのみその権利関係の判断をする裁判所の爲し得るところではない。尤も裁判所は法令の審査権限を有するところではあるが、これは日本国が裁判権を有する事項につき、具体的で且つ当事者間に爭ある権利関係について、その適用すべき法令の審査を爲す場合のことである。かようなわけで、單に法令の解釈について裁判所の見解を訴求するにすぎない本訴は不適法な訴というべきである。仍て、原告の訴を却下することとし、訴訟費用については、民事訴訟法第八十九條を適用して主文のように判決するのである。

(裁判官 北野孝一 米光哲 向井哲次郎)

原因及び事由

一、原告は今次惨戰で義務兵士として召徴された生計の支柱である元満鉄社員長男に昭和十九年三月二十七日陣歿され現在老妻と二人の子女と四人暮しの世帶主で長女の中学教官として受くる平均月額六千円内外の実收で辛くも健康の保障を欠く非文化的最低限度の生活保護法適用寸前の苦境に立つて其の日を暮す而も身体障害者に等しき痼疾に惱む老朽無産者でありまして差し当り生活費の不足を補ふ爲め当時の法令に基き一時賜金や扶助料等の請求を急ぎ特に銃後援護会金沢支部長の計いで聯隊区司令官の同意を得て二十年七月十七日死亡診断書のない戰病死の公報を受けて戸籍を抹消し十一月十六日付下付の謄本を添いまして請求の手続きを了しましたが翌廿一年二月勅令第六十八号を以て軍人恩給と共に剥奪されたのであります。

二、軍国主義の精算放棄を狙つて其の基本を指令された占領軍総司令部の軍務に服したる事に因つて受くる恩給等の諸給與停止に関する二十年十一月廿四日付覚書に基き恩給法改廃までの暫定措置として支給せざる事に布告された勅令第六十八号中軍人軍属の遺族たるに因つて受給されて居る扶助料及一時金等とは国庫納金を納めた終身職業軍人等の基本的恩給の延長として当時既に受給されて居た遺族の扶助料等であつて現行恩給法第七十三條『公務員の死亡を退職と看做し其の遺族に給する扶助料』即ち身廻り経費にも充たぬ薄給で臨機出戰務に強徴されて陣歿した暫定的労務戰士の遺族に給する最少限度の給料生活に必要な実質的には民法上の扶養的慰藉補償に該当する一時金及扶助料等までも包含されてない事は「マ」司令部「ネーフ」課長の責任ある正しき見解の如く覚書では給與の名称や支出科目の如何に不拘事実軍務に服しない遺族の扶助料と限定した制限はしてない。寧ろ軍国日本恩給法中の恩給であつても申請許可を受け又は政府当局裁量で除外の余地も充分與えてあるとの弁証に依り明かにされ、且つ廿一年八月八日衆議院生活保護法委員会に於ける河合元厚相の説明に依つて見るも敗残軍閥の援護に偏し事重大なりと誇称し、権利を封じられた国庫納金を口実に職業軍人の恩給と共に厚生年金に切り替い様としたが、軍人恩給停止の目的は征服強権の発動に依り追放処分を受けた者と同様に侵略戰爭指導支持の問責に重点を置いて懲罰的に権利を剥奪されたのであるから、姑息な謀略的代替復活は許されなかつたのであると之れを深く堀り下げて見るに原告の様に既に伜の戰歿に因つて扶助料算定の標準器である恩給法第七十三條を準用した軍公務員恩給との因果は完全に絶断され、其の翌日更めて恩給法第三條に因り殉職軍公務員の実父である軍務と関係のない老廃野人の扶助的恩給権となつて確認請求手続済であつた此の神聖な何人も否定の出來ない原告一代の権利を声なき戰歿軍人の寃罪に因つて剥奪された恩給の延長又は類似の年金即ち義権共に死滅し対象を失ふてありいない片務的権利のみの延長継承なりと牽強て剥奪する事は、罪償死滅の天則に悖り戰勝に因る絶対強力な征服権なりと雖も、之を押し枉けて懲戒的に拘束する事の出來なかつた宇宙眞理の表証即ち愛兒を捧げた義務の対象となつて更たな実父の権利として保障を確認すべく恩給法第七十三條が期せずして廃除されなかつたのであると主張するのである。

尚其の顕著な反証として傷痍軍人や直接戰務に干與しない文官出仕の生存義務兵士又は下級軍属等の恩給権が存続する事の適確な実例を挙げて見ても「ネーフ」課長の覚書の精神を解剖した弁解か慰撫的無責任な独断の誤つた僞証でない限り軍人遺族には覚書の禁令に基き軍国礼讚の香り高き軍神の遺族として温養的に優遇するかの様に疑はれ易き年金制扶助料の還元支給は勿論新たな代替年金支給も亦軍人恩給と同様に絶対不可能なりと去る三月三日参議院に於ける太田議員の緊急質問に対する池田藏相の「ネーフ」課長の誠実な見解に含みのある様な矛盾した答弁は所謂戰犯、追放敗残將士と相通ずる志願に依る名譽職であつた軍神の遺族と其の意に反し、強徴されて陣歿した戰時用臨時労務戰士の遺族である野人までも一般国民と差別して一律に特殊軍神圈内に「マツリ」込み何等実質的補償の伴はぬ微温的な弔霊慰藉の美名に匿れて覚書の指令なりと威嚇し戰犯追放組と無理心中の屈辱的忍從を強いるかの如き不法な強弁は啻に自由なるべき信教帰一化の啓蒙を阻止するのみならず憲法第十八條に触れ親兒二代に袴る奴隷的拘束なりと彈駁し良心的に見て正に僞証を蔽ふ爲めに至上の絶対権を借りて国民の代表を欺瞞した恫喝的不謹愼な八百長的其の場逃れの詭弁に過ぎないと反激し得るではないか。

三、仮りに覚悟の上で夫や肉親を侵戰に捧げ軍神の遺族たる事を誇り卒直に諦むる曲型的な軍国盲信者と共に全面的に余儀なくされた扶助年金の停止であつても原告の如く更に雅弱き青春の誇りを捨てた子女の自主的勤労を犧牲に志願した未亡人以上悲惨な環境を倶に軍神の家柄として明るく生きる余力は勿論希望も執着も持てない老朽無産者が生計の支柱と換いた養老に必要な涙の扶助料までも剥奪して虐待する事は基本的人権侵害の顕著な罪惡である事の認識深く民主的に賢明な覚書は其の枠内で『(マ)司令の認可を受けたもの又は肉躰的障害者に対する補償的給與或は軍務解除前発した給料生活上の債権手当等は除外す』と明示して傷痍軍人等の恩給を廿一年二月閣令第四号に織り込み総理大臣の権限で合法的に疵護救出した如く例外を許してあつたにも不拘逆に之れを濫用し剥奪された軍人恩給と共に厚生年金に切り替い法術的に避難させようと謀つて拒否された便乘的苦策は当時の情勢から見て明かに軍閥掩護の爲めに禁令を潜る卑怯な反逆工作なりと痛く至上の反感を買い即時主務大臣を追放して強権の硬化に應い一方法定の失権審査も行はないで敗残追放軍官公務員の基本的恩給や其の延長である覚悟の遺族扶助料又は類似の賞勳年金や行賞一時金等と抱き合せ(マ)指令の所謂軍人恩給の延長又は年金に該当すると低級無知な弱き遺族の虚を衝き咎なき野人原告等に不利な曲解を以て至上権に迎合し宣託を楯に国会を茶化し事後承認の勅令を発して支給せざる事に暫定した儘今日に至る事は終戰処理に彼等の爲め莫大な軍用資材の隠匿放散を幇けて公安を乱して逆鱗に触れながら平然軍残務の公職に居据る不埒な敗残追放將士を中心に軍国主義に踊らされて喘ぐ可憐な遺族の心傷を逆用し軍政の撤退を待つて軍人恩給も共に代替復活しようとの野望を捨てぬ軍閥残党と強き軍神遺族の余勢に牽制され過ぎた内政の封建的醜態を掩ふて世上の疑惑を解き反面強権の鼻息を伺い傳統的に数の多い下の遺族に薄く便乘して上に厚く三度贔屓倒そふと企む冷たい「ゲリラ」に構いて寢刄を礪く危險な敗残軍権濫用の疑ある実に不可解な行政処分であつて前後解説の如く基本的覚書に野人の恩給権までも剥奪して侵戰協力の寃罪を膺懲せよと指令されてない事が明確に立証された以上当事者の良心に訴い識者の認むる此の不当措置の解除還元を迫つて閣令第四号に追加織込むか若しくは不可の合理的な眞相を鮮明にしない限りは明かに政府当局が事大錯誤の因襲に囚はれた覚書違反以外何ものでもないと断じて毫も憚る所なしと確信するのである。

四、要するに憲法を超越した「ポツダム」宣言に基く覚書の原則と之れを国内法制化して実行に移す爲め公布された微力な事後承認の勅令と繋る因果竝に綜合的効力の見解を誤り其の運用に誠実を欠き而も恩給法第十三條に依る審査会い訴願の機会や請願に対し被告の見解も與いず且つ侵戰幇助の寃罪を戰歿に因つて償ふた軍公務員の実父である咎なき野人を故なく戰犯追放軍官憲に連座させて一生涯の権利である慰藉補償的僅かな扶助料の享給権までも剥奪する事は自然の天理に背く苛酷な不法処罰なりと当局が軍閥の残党に任せて自主的に代弁もなし得ない惡事態に導き、仮りにも終戰処理の煩雜な間隙に乘じ軍人恩給も便乘しようとする暗躍待避の捨石に「マ」指令を鵜呑にされたのであるならば尚更責めて身体障害者に等しき還暦無能の無産者丈でも殉職公務員の遺族並に其の代替を粘りもしないで乱に覚書の指令なりと捏造して強奪された事は恰も国内における吉村隊の「リンチ」事件に似て非なる非道義的惨酷な措置であつて正に被告の公務員たる職責を回避した不從な違法行爲に因る原告の恩給権侵害なりと指摘し権利遡及の根本的理念に基き法治国共通の自然律である慣習や二十二年法律第一六七号労基準用令と狙み合せ憲法第八十一條に拠り公正な司直の判決を求むべく提訴するのであります。

六月二十九日付訴状事由追補(第一回)

五、昭和二十五年三月三日太田参議員の遺家族救護施設に関する緊急質問に対し

(1)「吉田首相の答弁要旨」軍人の遺族であるが故に特別扱する事は軍国主義的な感じを與い国際的な考慮から十分な取扱いは出來なかつた。

(2)「池田藏相の答弁要旨」遺族年金は軍人恩給停止に関する総司令部の覚書で支拂ふ事は出來ない。

(3)「二十年十一月廿四日付総司令部覚書の要旨拔萃」軍務に服したる事に因つて受給される恩給其の他各種給與は恩給法等関係法令改廃までの暫定措置として其の支拂を停止すべし、但し「マ」司令官の許可を得たもの又は勤労能力を制限するが如き肉躰的障害に対する補償的給與及軍務解除前発生せる給料生活上の手当、旅費其の他通常の給與等には之れを適用せず。

原告は両相の懈かれる如く軍神の遺族なるが故に公益を阻む様な不当な年金や特別の扱を望むのではなく所謂軍国主義の奴隷的犧牲に過ぎなかつた無名労働戰士の軍務に干與しない寧ろ私に戰爭を呪ふた不遇な廃老無産遺族までも一律に年金の野望を抱く強き軍神圈族内に吊り上げ覚書の指令なりと威嚇して僅かな給料生活に必要な慰藉補償的扶助料までも剥奪された軍人恩給や賞勳年金と抱き合せ停止された儘今日に至る事こそ国際的に見て廃老は総て軍国主義の残骸なりと占領軍側から無理心中を強いられたのであると政府自ら裏付けるが如く親米離反的含みのある矛盾した迎合的、不合理な違法措置なりと主張するのであります。

即ち之れを国内法に照し相互の良を透して見るに明かに覚書や現行恩給法第七十三條及憲法第三十一條に背く不法処罰で而も憲法第十八條に触れ親子二代に袴る奴隷的拘束なりと抗議し一面恩賞関係当局が廃老に誠実を欠き自主的に弁護し得なかつた責任回避を狙つて処分した事の非を蔽ふ爲め逆に公務員が軍人恩給便乘を企むだ軍残務に居据る不埒な敗残復員官等と力を合せ卑怯にも絶対至上の指令なりと捏ち上げて国民の代表を欺瞞し其の反面低給無知な弱き野人遺族の虚を衝き恩給権を強奪したので人間野人としては正に死に優る脅威的官権濫用を以て人権を冒辱されたので恰も曉に祈る「リンチ」事件に似て非なる無法な人権侵害なりと指摘し、此の際権利遡及の根本的理念に基き立憲法治国共通の不文律である慣習や廿二年法律第一六七号労基法準用令とも狙み合せ憲法第十七條に依り殉職公務員の遺族並に補償すべきであるとの裁判を要求するのであります。

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